You Know Your Right
大阪の中心街を歩いていると、少し先のところで外国人の老夫婦が困っているようでした。なにやら一枚の紙と地下鉄の切符売場の路線図を見比べています。
僕はその風景を見ながらそちらの方に向かって歩いていきました、目的の電車の駅がその老夫婦がいる先にありましたから。そう歩いているとおじいさんと目が合ってしまったのです。だけれどもイヤホンをつけて音楽を聴いているような状態でしたので道を尋ねられることなどないと高を括っていたのです。けれども。
「ソーリー。ヨ…バシ?」
ああ。尋ねられた。道を尋ねられてしまいました。僕はどう対応してよいか分からなかったのですけれども、力になってあげたいと思ったので、英語とも日本語ともつかない言葉をなにやら唱えながら、老夫婦の持つ紙を見せていただきました。
「おー、淀屋橋か。ええっと、ヒアイズウメダ。ディスブルーラインオブサブウェイ…。うー。」
「…ヒア、オオサカコー。」
「あー、大阪港に行きたいんですね。淀屋橋を通ってということですよね。それだと、ユーシュッドライドサブウェイフロムニシウメダ…。」
「ニシウメダ?」
「あー、ここは御堂筋線だから梅田か。えっとちょっと待ってくださいね。ウェイト、プリーズウェイト、アリトル。」
それで僕は西梅田の駅までどのように行ったら良いのかを、地下街にある天井付近から垂れている道を示す案内板を見ながら考えましてから、
「ゴーストレイト。ターンレフト。」
なんて簡単な説明をしました。分かってくれたかどうかわからりませんでしたけれども、
「オーサンキュー。ドモアリガト。」
というような言葉を頂きました。これらの言葉のキャッチボールを交わしまして老夫婦と別れた後に、なんとか少しは老夫婦の助けになったかもと思ったと同時に、もし解釈が間違っていたら悪いことをしてしまった、とか「カモンウィズミー」なんか言っちゃって西梅田の駅まで連れて行くべきだったとか思いました。この体験から、いつかはやらなければいけないと思いつつも避けてきた英語を勉強しなければいけないと思ったのです。外国人と何の抵抗もなく話すことができて、さらっと会話できたらいい気分だろうなと思ったからです。会話にさえなっていなかった今日の出来事でさえ少しだけ良い気分になったのですから。
老夫婦と別れてから、今日本屋で買ったばかりの町田康の夫婦茶碗という文庫本を読みながら学校へ行って、食堂で和風きのこうどんを食べました。どうやら外国語を学ぶのは当分先送りになりそうです。
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